手術室では、病変の位置を確認したり、臓器が正常に機能しているかを調べたりするために、「色素製剤」と呼ばれる薬剤が使われることがあります。
ですが、「何のために使っているのかよくわからない」という方も多いのではないでしょうか。
色素製剤は種類ごとに適応や使い方が異なり、取り扱いの注意点や副作用についても理解しておく必要があります。
この記事では、手術室でよく使われる色素製剤の種類と目的・観察のポイントを整理していきます。

自著
総合医学社「オペ看ノート」
メディカ出版「メディカLIBRARY」
エッセイ:オペナースしゅがーの脳腫瘍日記
クラシコ株式会社「NURSE LIFE MIX」
記事:オペ看ラボ
漫画:しゅがーは手術室にはいられない
手術室で色素製剤を使う目的

手術で使う色素製剤には、大きく分けて2つの目的があります。
色素製剤を用いた観察方法
色素製剤は、使い方によって3つの観察方法に分けられます。
手術室で使う色素製剤

手術室でよく使われる色素製剤を一つずつ紹介します。それぞれ目的・剤形・注意点が異なるので、使用場面と合わせて覚えておきましょう。
インジゴカルミン

- 尿管の狭窄や閉塞の確認
- センチネルリンパ節の同定 など
尿管の狭窄や閉塞の確認では、投与後3~5分程度で尿管内に排泄が始まります。

10分以内であれば正常範囲とされるよ!
インドシアニングリーン(ICG)


- 蛍光イメージングを用いた脳血管造影・肝外胆管造影
- センチネルリンパ節の同定 など
ICGは凍結乾燥注射剤のため、使用前に注射用水で溶解して用います。



ヨウ素が含まれているため、ヨードアレルギーのある患者は要注意!
ブリリアントブルー


- 眼科手術(硝子体手術や白内障手術など)における内境界膜の染色、組織の可視化など
染色性が高く、網膜毒性が低い術中補助染色剤として使用されている。
医療用ブリリアントブルーGは国内未承認です。
同じように、眼科手術における染色に用いていた「トリパンブルー」。
眼科手術におけるトリパンブルーの使用について、当該染色試薬が真菌に汚染されていた可能性が高いとの報告があり、日本眼科学会、日本眼感染症学会、日本眼科医会より合同で注意喚起が行われました。
その後、令和7年12月26日に、厚生労働省より「トリパンブルー染色液が原因と推測される真菌による眼内炎発症事例について」という文書が出ています。
メチレンブルー


- 副甲状腺の同定(適応外使用)など
メチレンブルーは本来メトヘモグロビン血症の治療薬ですが、術中には副甲状腺の同定を目的として用いられることがあります。



希釈には5%ブドウ糖液を用いるよ!
「原則使用禁止」の色素製剤
以前は術野でのマーキングなどに、メチルロザニリン塩化物(クリスタルバイオレット・ビオクタニンブルーなど)を含む皮膚ペンが使われていました。
しかし、遺伝毒性や発癌性のリスクがあることが明らかになり、厚生労働省から原則使用禁止の通知が出ています。



だから、今は「クリスタルバイオレットフリー」の皮膚ペン!術野でメモを取るときにも使っていたよ。
色素製剤投与後の副作用
色素製剤の静脈内投与後、見かけ上SpO₂が低下することがあります。
パルスオキシメータは血管を透過する赤色光・赤外光の吸収差で測定しています。
静脈内に投与される色素製剤は、赤色光の波長域を吸収するため、センサーが受け取る光量が変化します。
その結果、SpO₂が実際よりも低く表示されることがあります。



SpO₂の低下は一過性で、通常は1〜2分程度で回復します。
ずっとSpO₂低値が続く場合は、色素製剤以外の原因を考えましょう。
「センチネルリンパ節の同定」とは


色素製剤の使用場面として、「センチネルリンパ節の同定」という言葉がよく出てきます。
色素製剤を投与すると、リンパ管を通って最初に到達するリンパ節が染まります。
これが「センチネルリンパ節(見張りリンパ節)」です。
このセンチネルリンパ節を摘出して生体検査を行い、がんがリンパ節へ転移しているかを判定します。



摘出したリンパ節は術中迅速病理診断に出します!
おわりに
今回は、手術室で使われる色素製剤について、種類・目的・観察のポイントをまとめました。
インジゴカルミン・ICG・ブリリアントブルー・メチレンブルーと、それぞれ適応や使い方が異なります。
「なんとなく使っている」で終わらず、なぜ使うのか・投与後に何を見るのかまで理解できているといいですよね!
また、色素製剤の静脈内投与後にSpO₂が一過性に低下することは、知らなければ焦ってしまう場面のひとつです。
「色素製剤を使ったから」と落ち着いて対応できるよう、あらかじめ頭に入れておきましょう。
さらに、クリスタルバイオレットのような「かつては使われていたが、現在は使用禁止になったもの」があるように、医療の現場では情報のアップデートが欠かせません。
この記事が、日々の手術室業務の「なぜ?」を解消する一助になれば嬉しいです。
【参考文献】
- 日本麻酔科学会・周術期管理チーム委員会 編著:周術期管理チームテキスト第5版,日本麻酔科学会,p218₋219,2025
- 武田純三 編著:手術室の薬剤114.メディカ出版,p208-213,2025
- アルフレッサ ファーマ株式会社:インジゴカルミン注20mg 添付文書
- 第一三共株式会社:ジアグノグリーン注射用25mg添付文書
- 第一三共株式会社:メチレンブルー静注50mg 添付文書


















