手術において、決して欠かすことのできない手技が「縫合」です。
そして、その繊細な操作を根本から支える中心的な器械が「持針器」です。
持針器は、ただ単に針を把持するための道具ではありません。
持針器はただ針をつかむだけではなく、渡し方や針の向き、糸の扱いといった細かな工夫によって術者の操作性が大きく変わります。
とはいえ、縫合糸や縫合針はとにかく種類が豊富です。
「最初はどれがどれだか分からず、苦手意識を持ってしまう……」と悩む方も多いのではないでしょうか。
しかし、それぞれの特徴や用途を少しずつ紐解いていけば、焦らず的確に、そしてスムーズな器械出しができるようになります。
この記事では、持針器の基本操作から、複雑に感じる縫合糸・縫合針の知識までを分かりやすく整理しました。
明日からのオペ室での実践にすぐ活かせるポイントを、一緒に確認していきましょう!

自著
総合医学社「オペ看ノート」
メディカ出版「メディカLIBRARY」
エッセイ:オペナースしゅがーの脳腫瘍日記
クラシコ株式会社「NURSE LIFE MIX」
NLMメイトとして記事連載中
記事:オペ看ラボ
漫画:しゅがーは手術室にはいられない
持針器の基本

縫合操作をスムーズに進めるために欠かせないのが、持針器です。
針の扱い方や向き、渡し方ひとつで、術者の操作性は大きく変わります。
まずは持針器の基本と種類、器械出しで押さえておきたいポイントを確認していきましょう。
持針器とは

持針器とは、主に縫合針を把持するための器械。
把持面には、針が滑らないようにダイヤチップ加工や溝加工が施されていることが多いです。

基本的に、粗いチップは大きめの縫合針、細かいチップは小さく細い縫合針に適しています!
持針器の種類
| 名称 | 形状 | 対象 | 概要・注意点 |
|---|---|---|---|
| へガール 持針器 | ![]() ![]() | 腹腔内などの深い層の縫合操作 皮膚や真皮の浅い層の縫合操作 | 把持面は溝がついているものや、ダイヤチップ加工がついているものがある。 把持面のサイズや柄の長さはさまざまなので、術野を見て使い分ける。 例: 腹腔内で腸を縫合 → 長いへガール 閉腹で皮膚を縫合 → 短いへガール |
| マチュー 持針器 | ![]() ![]() | 皮膚や筋膜など、硬い組織の縫合操作 | 戻しバネつきのラチェットがついていて、把持力が強い。 大きめのつくりなので、腹腔内などの繊細な縫合操作には適さない。 例: ドレープやドレーンの固定で弾機針を用いるとき。 |
| ローゼル 持針器 | ![]() ![]() | 皮膚や筋膜など、硬い 組織の縫合操作 | ラチェットが外れるようになっていて、把持部が大きく開く。 ラチェットは小指で外すので、術者の小指側にラチェットがくる向きで渡す。 例: ギネ(産婦人科)の手術で、膣断端部の縫合など。 |


弾機針とは、糸をつけて使用する針です。
マチュー持針器を用いてドレープやドレーン固定に使用されます。
持針器の渡し方


持針器を渡すときのポイントは、術者の掌に縫合糸が入り込まないようにすることです。
持針器を術者に渡す際の重要なポイントは、術者の掌に縫合糸が入り込まないよう配慮することです。
術者が縫合糸を握りこんでしまうと、持ち替える動作が増え、手術の流れを妨げる原因になります。
そのため、持針器を渡す手術室看護師は、糸の位置と針の方向を常に確認し、術者が安全かつ正確に縫合操作へ移れるよう工夫する必要があります。
順針・逆針


持針器を渡すときに悩むのが「針の向き」ですよね。



術式によって先生の立ち位置が違うから、
針の向きが分からない、、、
基本的に、針の向きは指示がなければ「順針」で渡します。
※持針器は基本的に術者の利き手(右手)に渡します。


さらに大事なのが縫合糸の扱いです。



医師が持針器の柄と一緒に糸を握り込んでしまうと、
糸を払い除けたり、持ち直したりしてしまいます。
手術中のスムーズな流れが止まってしまう…!
• 糸は自分の手背側に垂らす
• 糸を持って医師の手背側へ誘導する
こうすることで、術者が糸を握り込まずスムーズに操作できます。
縫合糸・縫合針


縫合糸・縫合針は、太さや素材、針の形状などによって特徴が異なり、目的に応じて使い分けられます。
まずは基本的な知識と、現場でよく目にするポイントを確認していきましょう。
縫合糸・縫合針とは
縫合糸・縫合針は、組織の縫合や止血のために使用します。
縫合糸にはさまざまな種類があります。
- 太さ
- 長さ
- 針の種類
- 構造
理解して使い分ける必要があります。
縫合糸のパッケージの読み方


| 糸の太さ | 糸の太さは、米国薬局方(USP)が定めている。 【細】12-0・11-0・10-0…0・1・2・3…【太】 |
|---|---|
| 糸の長さ | インチとセンチ表記。 この糸なら18インチ(45cm) |
| 針のタイプ | Taper→丸針 Blunt→鈍針 Conventional→角針 など |
| 引き抜き可能針 | 縫合糸を引っ張ると、針と糸の接合が外れて取れるもの。 「コントロールリリース(CR)」「デタッチ(D-Tach™)」などがある。 |
| 有効期限 | 有効期限を確認してから開封する。 |
パッケージを開封する前に、必ず有効期限をチェックしましょう。
同じ「3-0バイクリル®」でも
• 本数
• 長さ
• 針の仕様
が異なるため注意が必要です。





「この縫合糸でなにをしたいのか」が分かると選択できるんだけど、最初は難しいです!
分からないときは、パッケージを開ける前に医師に確認しましょう。
縫合糸の特徴
縫合糸は、「素材」「機能」「構造」によって組み合わせてつくられています。
| 素材 | 天然素材 | 強度は低い。 異種たんぱくのため、抗原と認識され、組織の炎症反応が強く生じる傾向がある。 |
|---|---|---|
| 合成素材 | 抗張強度が高い。 組織反応は軽微。 | |
| 機能 | 吸収性 | 経時的に吸収される糸。 吸収されるので、異物が体内の残らないというメリットがある。 主に消化管・筋膜・皮下組織・尿路生殖器などに用いる。 |
| 非吸収性 | 吸収せず残留する糸。 組織保持力が必要となる部位に用いられる。 主に表皮・血管・神経組織・骨・靭帯などに用いる。 | |
| 構造 | モノフィラメント(単糸) | 細菌の入り込みが少ないため、細菌感染のリスクが低い。 |
| ブレイド(編糸) | 柔らかく、扱いやすいが毛細管現象があるので、細菌が入り込みやすい。 |
縫合糸の例
| 天然素材 | 非吸収性 | モノフィラメント(単糸) | ステンレススチール |
|---|---|---|---|
| ブレイド(編糸) | サージカルシルク エルプ糸付シルク | ||
| 合成素材 | 吸収性 | モノフィラメント(単糸) | PDS®Ⅱ マクソン™ モノシン® |
| ブレイド(編糸) | VICRYL® ノボシン® ポリゾーブ™ | ||
| 非吸収性 | モノフィラメント(単糸) | ベアロン プロリーン® サージプロ™ | |
| ブレイド(編糸) | エチボンド エクセル® タイクロン™ サージロン™ |



挙げたのは一部です!
自分の施設ではどれを使っているのか確認してみてください!
特殊な縫合糸
縫合糸の中には、特定の目的に応じて機能が付加されたものもあります。
感染予防や操作性の向上など、手術の安全性や効率を高めるために使用されます。
ここでは、代表的な特殊な縫合糸について確認していきましょう。
抗菌縫合糸
抗菌縫合糸は抗菌効果をもった縫合糸で、SSI予防(手術部位感染)に有効であるとされています。
| 合成素材 | 吸収性 | モノフィラメント(単糸) | PDS Plus® |
|---|---|---|---|
| ブレイド(編糸) | VICRYL Plus® |



主に感染リスクが高い手術での縫合、例えば消化器外科だったら腹膜や筋膜などの縫合に用いられます。
バーブドスーチャー


バーブドスーチャーとは、糸の表面に小さな返し(バーブ)が付いた縫合糸のことです。
結び目を作らず組織を縫合ができます。
| 合成素材 | 吸収性 | モノフィラメント(単糸) | V-Loc™ 90・180 PDS Plus STRATAFIX®Symmetric PDS Plus® |
|---|---|---|---|
| 非吸収性 | V-Loc™ PBT |



腹腔鏡下手術では腹膜・腸管、開腹手術での筋膜などの縫合に用いられます。
おわりに
ここまで、持針器の基本操作から多種多様な縫合糸・縫合針の特徴までを確認してきました。
最初は「種類が多すぎて、どれを選べばいいか分からない!」と戸惑うかもしれませんが、それは誰もが通る道です。
一度にすべてを暗記しようと焦る必要はありません。
まずはご自身の施設でよく使われている基本のセットから、少しずつ「なぜこの場面でこの糸を使うのか」を紐解いてみてください。
器械出しは、ただ指定されたものを手渡すだけの作業ではありません。
術者の意図を汲み取り、持針器を渡す際の「糸を握り込ませない工夫」や、開封前の「確実な声かけ確認」といった細やかな気配りこそが、手術の安全とスムーズな進行を根本から支えています。
一つひとつの知識の定着と、現場での小さな工夫の積み重ねが、必ず確かな自信へと繋がっていきます。
この記事でおさらいしたポイントが、明日からのオペ室での実践に少しでも役立てば嬉しいです。
焦らず、一緒にステップアップしていきましょう!
【参考文献】
- 川原美穂子 編著:完全保存版! 手術室の器械・器具210(オペナーシング2024年春季増刊).メディカ出版,p43-48,2024
- NPO法人国際健康福祉センターデバイス研究会 編:手術室デバイスカタログ,金原出版 ,p133-136・320-352,2022
- 寺尾保信・木村武一郎 ・去川俊二 著:毒舌ツクモ神の外科道具絵巻.医学書院,p26-36,2023
- 下間正隆:カラーイラストでみる外科手術の基本.照林社,p54-59,2004
- 武田知子 編著:NEWはじめての手術看護.メディカ出版,p168-173,2022
- 外科医TEE 編著 :外科研修おたすけBOOK.メジカルビュー社,192-195,2025





















