ガウンの清潔範囲や器械台の扱いは、手術前の準備で一度は学ぶところ。
でも、手術が始まってからの「今この操作は清潔なのか、不潔なのか」は、また別の理解が必要になります。
そしてこの線引きは、SSI(手術部位感染)を防ぐためにあります。
なぜ器械を分けるのか、なぜ手袋を替えるのか…理由がわかると、術中の判断に迷いにくくなりますよね。
今回は、手術室の「清潔・不潔」の考え方から、外科手術における「不潔操作」までをまとめて解説します。
腹腔鏡下S状結腸切除術を例にした不潔操作の流れも載せているので、ぜひ参考にしてみてください。
手術室の「清潔・不潔」の意味

「不潔」と言われると、なんとなく「汚いこと」を想像しますよね。
でも手術室での「清潔・不潔」は、見た目がきれいかどうかだけでは判断できません。
まずは言葉の意味を整理しておきます。
清潔
物体の表面に病原体が存在しない、または存在しても感染を起こさない程度に少ない状態のこと。
不潔
物体の表面に病原体が存在している、または存在する可能性が高い状態のこと。
滅菌
芽胞を含む全ての微生物を殺滅し、微生物の存在確率を100万分の1以下にすること。
無菌
物体や生体などについて、全ての微生物が殺滅・除去されており存在しない状態のこと。
手術室では「滅菌された物品が、適切な包装・保管・取り扱いにより、微生物の侵入・付着を受けていない状態」を指して使われます。
無菌操作
物品などの無菌状態を維持しながら操作を行うこと。
冒頭でお伝えしたように、清潔・不潔は見た目だけでは判断できません。
また、「ここから先は不潔」という明確な線引きがあるわけでもなく、場面ごとに判断が求められます。
ここからは、判断のヒントになる考え方を、具体的な場面ごとに確認していきます。
術中の「清潔・不潔」|器械出しの身体回り編
まずは、自分の身体回りの境界線から確認していきます。
滅菌ガウンの清潔範囲

清潔なのは、胸部から腰までの前面と、手先から肘上あたりまで。
背中、襟元、肩、脇の下、腰より下は不潔とみなします。

シンプルに、「自分の目で見えない部分は、不潔になっている可能性がある」と考えておきます。
器械台・メイヨー台


台の上面は清潔ですが、基本的に縁から下は不潔です。
また、電気メスや吸引などのコード類も側面に垂れているところは不潔扱いです。
そのため、術中に引っ張られて不潔部分が台の上に上がってこないよう、コードの長さに余裕をもたせて設置します。
手術器械の受け渡し
器械は、原則として術者の前面で受け渡します。
やむを得ず背中側から渡すときは、「後ろから渡します!」「うしろから失礼します!」などと声をかけてから渡します。
外回りとの距離感
外回り看護師との距離にも注意が必要です。
追加の器械や検体の受け渡しなど、術中は外回り看護師と近い距離で接する場面が何度もあります。
そのとき、外回り看護師の腕や体が触れてしまうと不潔になります。
術中のガウンのまま清潔区域に入らない
術中に追加の器械が必要なのに、外回りが不在。
急いで誰かを呼びたくて、ガウンを着たまま器械が置いてある清潔区域へ…。
自分のガウンは「手術の中では清潔」ですが、手術が始まった時点で血液に触れているガウンです。
清潔保管エリアに持ち込んでいいものではありません。



どこを基準に清潔と言っているかを意識してみてください。
外科手術の「清潔・不潔」と「不潔操作」


術野の中にも清潔・不潔の境界線があります。
例えば、腹腔内は本来無菌です。
一方で、腸などの消化管の内腔には大腸菌などの常在菌がいます。
そのため、消化管の内腔で行う手術操作は「不潔操作」と呼ばれます。
消化管の内腔に触れた器械なども「不潔なもの」として扱います。
このように分けて考えるのは、術野に菌を持ち込まない、菌を増やさないようにしてSSI(手術部位感染)のリスクを下げるためです。
不潔とみなす部位・操作
- 消化管内
- 気管支内部
- 腟断端
- がんの病巣部
- 感染している組織
- 耳や鼻など外気と通じるところ



がん病巣に触れた器械を清潔器械と混ぜないのは、感染だけでなく、腫瘍細胞を広げないためでもあります。
不潔とみなす部位に触れる操作を「不潔操作」と呼びます。



よくある不潔操作だと、消化器外科で腸の縫合・吻合を行う手術!
不潔エリア・不潔な器械の管理
不潔操作に入る前に、滅菌覆布などを使って不潔エリアをつくります。
そこに膿盆やトレイを置き、不潔操作で使った器械はすべてここへ。
不潔操作が終わったら、使っていた滅菌覆布は外に下ろすか、清潔な器械と接触しない場所に置き、管理します。



そのあと、新しい滅菌手袋に交換することが多いです。
術者・助手も同じタイミングで手袋を替えるので、人数分をあらかじめ出しておくとスムーズ!
【不潔操作】腹腔鏡下S状結腸切除術の例


-
ポート挿入
カメラポート、12mmポート、5mmポート×3
※ポート配置、サイズは執刀医による
-
腹膜切開(内側アプローチ)
- S状結腸間膜内側から腹膜を切開。
- 後腹膜の間を剥離。
- IMA(下腸間膜動脈)にそってリンパ節を郭清。
-
血管処理
- IMA(下腸間膜動脈)、IMV(下腸間膜静脈)、LCA(左結腸動脈)を切除。
腹腔鏡手術用クリップを準備!
-
外側腹膜の切開(外側アプローチ)
- S状結腸間膜外側と腹壁の間の腹膜を切開。
-
直腸側への剥離(内側アプローチ)
- S状結腸間膜、直腸S状結腸移行部の直腸固有間膜の背側の剥離。
- 肛門側の切離ラインまで腸間膜を切離。
-
腸管洗浄
- 腸管クリップをかけ、不潔野の医師が腸管を洗浄。
-
肛門側腸管の切離
- 自動縫合器でS状結腸を切離。
自動縫合器の先端、カートリッジは不潔として扱う。
-
小開腹・口側腸管を切離
- 気腹を終了し、体外で操作。
- 口側腸管の間膜処理を行う。
- 術野に不要な器械がある場合は医師に声をかけて回収する。
- 術野に覆布やタオルをかける。
ここから不潔操作
- タバコ縫合器をかけて直針を通す。
- 腸鉗子で腸管をクランプし、剪刀・メス・電気メスなどで切離し標本を摘出。
- アリス鉗子で腸断端を把持し、腸管内をガーゼ・小綿球などで消毒する。
- 自動吻合器のアンビルヘッドを挿入し、タバコ縫合器をかけた縫合糸で固定する。
ここまで不潔操作
不潔な器械、術野にある覆布やタオルを回収し、清潔な器械と分けて管理する。
新しい滅菌手袋に替える。 -
吻合
- 口側のアンビルヘッドと肛門側の自動吻合器を合体し、DST吻合を行う。
-
リークテスト・洗浄・ドレーン挿入・閉創
- リークテストを行う。止血を確認、腹腔内を洗浄しドレーンを留置する。
- ガーゼ・針・器械カウントを行い、問題がなければ閉創となる。
【DST吻合(Double Stapling Technique)】
ダブルステープリング法。
口側の腸管を自動縫合器で切離し、肛門側から自動吻合器を挿入してステープラーごと吻合する方法。


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清潔・不潔が難しいのは、目で見て確認できないからだと思います。
音が鳴って教えてくれるわけでもないし、色が変わるわけでもない。
だからこそ、どこが清潔でどこが不潔なのかを自分の中に持っておくことが必要になります。
そして、その範囲を把握しているのは、その術野を担当している器械出し看護師だけ。
不潔になったことに気づけるのも、申し出られるのも自分だけです。
清潔・不潔の判断は、経験を重ねるほど自然にできるようになります。
術式の流れが見えてくれば、「次は腸管を開けるから、そろそろ準備しよう」と先回りできるようになるはずです。
まずは次に入る手術の流れを、清潔・不潔の目線で追いかけてみましょう。
【参考文献】
- 日本手術看護学会 手術看護基準・手順プロジェクト 編:手術看護業務基準 改訂第2版(2025),p81-84,2025
- 畑啓昭 編:研修医のための見える・わかる外科手術,羊土社 ,p128-131,2015
- 外科医TEE! 編著 :外科研修おたすけBOOK.メジカルビュー社,p279-283,2025
- 山田 和彦 編著 :とことん詳しい消化器外科の器械出し(オペナーシング別冊).メディカ出版,p150-166,2024
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