手術が始まるまでの間、器械出し看護師は何をしているのでしょうか?
実は、手術前の準備には、手術時手洗いから滅菌ガウン・手袋の装着、器械展開、器械台の整理まで、さまざまな工程があります。
どれも「清潔を守る」だけでなく、手術を安全かつスムーズに進めるために欠かせない準備です。
特に器械台は、ただ必要な器械を並べておけばよいわけではありません。
術式や手術の進行を予測し、「次に何が必要になるか」を考えながら配置することが大切です。
今回は、器械出し看護師が手術前に確認しておきたいポイントから、器械展開、器械台の整理まで、実際の流れに沿って詳しく解説します。

自著
総合医学社「オペ看ノート」
手術時手洗いの前に服装チェック

手術時手洗いを始める前に、もう一度服装を確認しましょう。
マスク
マスクには、口腔内の微生物が患者さんや術野へ飛散するのを防ぐ役割と、患者さん側から医療者側への血液・体液の飛散を防ぐ役割があります。
紐はクロスにせずに結びましょう。
帽子
頭髪の脱落や頭皮の落屑による室内・術野の汚染を防ぎます。
「耳まで覆うべきか」は迷いやすいところですが、現時点で明確な決まりはありません。
国内のガイドラインに耳の被覆についての明記はなく、アメリカの周術期看護師協会も、帽子の種類や毛髪を覆う範囲とSSI発生率との関連は現時点の科学的根拠では示されていないとしています。
耳を覆うかどうかは絶対的なルールではなく、施設ごとの方針やケースの内容に応じて決めるもの、というのが現状の位置づけです。
フェイスシールド
患者さん側から医療者側への血液・体液の飛散を防ぎます。
サングラスのように額にかけたままにしている人も多いのですが、手洗いを始める前に下げておきましょう。

忘れたまま手洗いを始めてしまうと、他のスタッフに下げてもらうしかありません…。
手術時手洗い


手術時手洗いの目的は、皮膚の常在菌・通過菌を可能な限り減らすことです。
特に手術時手洗いでは、主に通過菌を減らすことが重要になります。
これにより、手術中に手袋が破れたり穴が開いたりした場合でも、SSI(手術部位感染)の原因となりうる術野汚染を低減できます。
常在菌と通過菌の違い
常在菌は、皮膚にもともと住んでいる菌のこと。
一方の通過菌は、患者さんや他のスタッフ、環境との接触によって皮膚の表面に一時的に付着した菌です。
大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などが代表的で、これらを手洗いで減らしていくことが術野汚染によるSSIの予防につながります。
手術時手洗いの3つの方法
- 非抗菌性石けんと水道水で手洗いを行う
- 未滅菌のペーパータオルで水分を拭く
- 速乾アルコール擦式製剤を擦りこむ
- ポビドンヨードスクラブ剤またはクロルヘキシジングルコン酸塩スクラブ剤で手洗いを行う
- 滅菌のペーパータオルで水分を拭く
- ポビドンヨードスクラブ剤またはクロルヘキシジングルコン酸塩スクラブ剤で手洗いを行う
- 滅菌のペーパータオルで水分を拭く
- 速乾アルコール擦式製剤を擦りこむ
どの方法でも、細菌数の減少に差はないとされています。
そのため、アレルギーや手荒れの状況を考えて手術時手洗いの方法を選択します。
以前は、手術時手洗いといえばスクラブ製剤とブラシを使ってゴシゴシ洗う「スクラブ法」が一般的でした。
しかし、ブラシによる手荒れがかえって微生物数を増やすなどの問題が指摘されています。
そのため最近は、揉み洗い法や、ブラシを使わないラビング法を採用する施設が増えています。
ガウンテクニック
ガウンテクニックの目的は大きく2つ。
1つは術野をできるだけ無菌に近い状態に保つこと。
もう1つは、血液や体液の飛散による医療者側の曝露を防ぐことです。
滅菌ガウン・滅菌手袋装着の流れ


滅菌手袋の装着方法は3つ
器械展開
器械展開とは、手術で使う器械を清潔な台(器械台)の上に、すぐ使える状態で並べる作業のことです。
器械出し看護師が中心になって行い、外回り看護師と連携しながら準備を進めます。
空気清浄度を保つために、扉の開閉や人の出入りが少ない場所で実施します。
器械展開は、滅菌ガウンと滅菌手袋を装着して行います。
このとき意識したいのが「清潔範囲」です。
滅菌ガウンの清潔範囲


- 胸部から手術台(腰あたり)までの前面
- 手先から肘上約5cmまで
背中、脇は不潔とみなします。
器械台の清潔範囲(滅菌ガウン着用後)


滅菌ドレープの上部のみが清潔で、側面・下部は不潔とみなします。
手洗い前に器械台へ滅菌物を出したいときは?
滅菌ガウンを着用していない場合は、滅菌ドレープが掛かっている場所全体が清潔だと捉えます。
滅菌物を出すときは、滅菌ドレープに触れないよう器械台から距離をとって開封しましょう。
同じ器械台でも、自分が滅菌ガウンを着ているかどうかで清潔範囲の捉え方が変わる点が、混乱しやすいところです。
滅菌物を開封するときの確認事項
滅菌物を開封するときは、必ず滅菌が保たれているか確認します。
- 化学的インジケーターの色が変化しているか
- 包装に破れなどがないか
- 滅菌期限が切れていないか
化学的インジケーターとは、色の変化で滅菌工程を通ったか視覚的に確認できるものです。
色はさまざまなので、自施設で使用しているものを事前に確認しておきましょう。
器械台の整理


手術中は、医師から指示される前に次に必要なものを予測し、手術器械を準備します。
「メス」と言われてから探し始めるのでは、どうしてもワンテンポ遅れてしまうからです。
このとき支えになるのが、器械台の整理です。
器械台が整理されていればどこに何があるかを一目で把握でき、必要な器械をすぐに手渡せます。
逆に器械が雑然と置かれていると、探す時間が生まれるだけでなく、視線が器械台に釘付けになって術野から目が離れてしまいます。
術野が見えていないと次の展開も読めなくなるので、遅れがさらに遅れを呼ぶことになります。
また、整理された器械台は安全面でも意味があります。
刃物や針が定位置にあれば針刺しのリスクを下げられますし、カウントもスムーズになります。
そして器械台の配置は、一度決めたら終わりではありません。
手術は場面ごとに使う器械が入れ替わっていくため、進行に合わせて置き場所も変えていく必要があります。
ここでは腹腔鏡下S状結腸切除術を例に、場面ごとの器械台の使い方を見ていきます。
【例】腹腔鏡下S状結腸切除術
サブの器械台には、剪刀・鉗子、鑷子、小開腹に使う器械を配置し、不潔エリアも確保しておきます。
メインの器械台には、ポート挿入に必要な器械を置きます。


意識してフリースペースを作り、受け渡しスペースを確保しておくとスムーズです。



腹腔鏡下用ガーゼや縫合糸といった細かいものは角箱で管理すると散らばりません。
【1stポート挿入方法】
- 臍部の皮膚をアドソン有鉤で展開し、メスで切開、電気メス(モノポーラ)で止血する
- コッヘルで筋膜を把持し、筋鉤で展開。腹膜をペアンで持ち上げてメスで切開する
- 腹膜・筋膜に2-0強々弯で糸をかける
- カメラ用のトロッカーを挿入する
- 臍部の皮膚をアドソン有鉤で展開し、メスで切開、電気メス(モノポーラ)で止血する
- カメラポートと、カメラを挿入する
- モニターを見て先端が腹腔内に到達したら気腹を開始する
腹腔内の操作に移ったら、長い鉗子類をメインの台に移動します。


サブの台では、手術後半に使う縫合器・吻合器など長く大きい器械の管理が必要になります。
あとから慌てないよう、事前に置き場所を考えておきます。



ただ器械を並べるだけではなく、術式や手順を踏まえて配置を考える。
これが器械台整理の本質です…!
おわりに
器械出し看護師の手術前の準備は、清潔操作を守りながら、手術を安全かつスムーズに進めるための土台づくりです。
手術時手洗いやガウンテクニックでは「清潔を守ること」、器械展開では「必要なものを正しく準備すること」、そして器械台の整理では「次の展開を予測すること」が重要になります。
特に器械台の整理は、経験を重ねるほど「ただ器械を並べる作業ではない」と実感する部分です。
術式の流れや医師の動きを考えながら、必要な器械を必要なタイミングで取り出せるように準備する…これこそが、器械出し看護師の大切な役割の一つです。
まずは自分の施設のルールを確認しながら、なぜこの場所に置くのかを意識して器械台を作ってみましょう。














