手術中、医師から「これ、迅速で出して」「これはホルマリンね」と次々に指示が飛んでくる場面。
新人のころは、検体が出てくるたびに「これ、何に入れるんだっけ?」と頭の中が混乱した方も多いのではないでしょうか。
手術で摘出された検体は、検査の種類によって保存方法がまったく異なります。
固定液に入れるものもあれば、固定液を使ってはいけないものもあり、扱いを間違えると正しい検査ができなくなってしまうこともあります。
検体は、その後の診断や治療方針を左右する大切な材料です。
だからこそ、外回り看護師も器械出し看護師も、それぞれの検体に合った受け渡しと保存ができるようになっておきたいところです。
この記事では、手術室で出会う検体の保存方法を、検査の種類ごとに5つに整理して解説します。
受け渡しのときの確認方法から、検体の保存方法まで、順番に見ていきましょう。

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総合医学社「オペ看ノート」
手術中に摘出した検体の取り扱い

手術で摘出された検体は、患者さんのその後を左右する重要な材料です。
たとえば、術中迅速組織検査の結果によって術式や切除範囲が変わることもありますし、摘出した臓器やリンパ節の検査結果は、腫瘍の進行度の判断や、追加の治療が必要かどうかの決定につながります。
つまり検体は、ただ「摘出したもの」ではなく、診断・治療方針を決めるための大切な情報源だということです。
だからこそ、取り扱いには注意が必要です。
検体の取り違えがあれば、別の患者さんの検査結果として扱われてしまうおそれがあります。
また、保存方法を間違えると、正しい検査ができなくなる可能性もあります。
「検体ひとつひとつが、患者さんの診断や治療に直結している」この意識を持って、受け渡しや保存方法を確認していきましょう。
検体の容器にはラベルを貼る
検体を入れた容器には、必ずラベルを貼って情報を明記します。
取り違えを防ぐための、もっとも基本的で大切な作業です。
保存容器や袋には、取り違えを防止するために以下の情報を個別に記載、またはラベル貼付します。
・患者氏名
・ID
・標本名
・採取部位
これらの手順は、ラベル付けの誤りや情報の伝達ミスによる不正確な診断を防ぎ、患者の安全を確保するために不可欠とされています。

患者間違いや記入間違い防止のため、ラベルは2名以上で確認します!
検体の受け渡しは「復唱」が基本


検体の受け渡しでは、指示された内容を復唱します。
医師は、検体の採取部位・組織の種類(検体名称)・保存方法を指示します。
【医師から検体を受け取るとき】
医師:「乳房のセンチネルリンパ節、濡れガーゼで包んで迅速で!」
↓
器械出し看護師:「乳房のセンチネルリンパ節、濡れガーゼで包んで迅速ですね」
【器械出し看護師が外回り看護師に検体を渡すとき】
器械出し看護師:「乳房のセンチネルリンパ節、濡れガーゼで包んで迅速です!」
↓
外回り看護師:「乳房のセンチネルリンパ節、濡れガーゼで包んで迅速に出します!」
このように、お互いが声に出して確認します。
復唱すれば、聞き間違いや思い込みによるミスを防げます。
手術室で扱う検体の保存方法


ここからは、検査の種類ごとに保存方法を見ていきます。
同じ「摘出した組織」でも、検査の目的によって扱い方が変わるので、ひとつずつ確認しましょう。
生体組織検査(生検)
生体組織検査(生検)は、診断のために組織の一部を採取する検査です。
採取した組織から、良性・悪性の判断などを行います。
原則として、ホルマリン等の固定液が入った容器に入れて保存します。
微小検体はろ紙等に貼り付けて固定します。



前立腺の針生検や、子宮頸部の円錐生検(円錐切除術)があります。
手術組織検査
手術組織検査は、手術によって摘出された臓器・組織を調べる検査です。
腫瘍の範囲や、進行具合などを判断します。
主な検体は臓器、リンパ節などです。
未固定で保存する場合は、乾燥を避けるために濡れガーゼなどで覆います。
固定する場合は、ホルマリン等の固定液が入った容器に保存します。



検体は、最終的に固定が必要です。
ただし、手術後に先生が切り出しを行う場合は、未固定のまま保存します。
固定してしまうと切り出しができなくなるため、固定する前に必ず保管方法を確認しましょう。
術中迅速組織検査
術中迅速組織検査は、手術中に短時間で行う病理診断です。
結果により術式や切除範囲が変更される場合があります。
主な検体は、センチネルリンパ節、摘出した臓器の断端などです。
ホルマリン等の固定液は使用しません。
乾燥を避けるために濡れガーゼで覆います。



特殊なケースとして、脳腫瘍の検体は、二つ折りのラップフィルムに挟むことが推奨されています。


術中迅速組織検査には、たくさんの呼び方があります。
- 迅速
- フローズン
- ゲフ
呼び方は違いますが、いずれも同じ「術中迅速組織検査」を指しています。
「ゲフ」は、ドイツ語で凍結を意味する「Gefrieren(ゲフリーレン)」が語源です。
標本づくりの過程で組織を凍結させることから、こう呼ばれています。
細胞学的検査(細胞診)
細胞学的検査(細胞診)は、細胞を観察し、悪性細胞の有無などを判断する検査です。
主な検体は胸水・腹水などです。
滅菌スピッツなど、検体ごとに指定された容器に入れて保存します。



例えば、進行がんの手術だったら「播種の有無を確認したいから、腹腔洗浄細胞診をとるかな?それなら、生理食塩液、回収用のシリンジやカテーテルを準備しておこう!」と、考えていました。
細菌検査
細菌検査は、微生物の有無を調べる検査です。
原因となる細菌を特定し、適切な治療法(抗菌薬など)を判断します。
主な検体は胆汁・膿などです。
滅菌スピッツなど、検体ごとに指定された容器に入れて保存します。



細菌検査では、ホルマリン等の固定液は使用しません。
おわりに
検体の保存方法は種類が多く、新人のうちは「これで合っているのかな」と不安になりやすいところだと思います。
私自身も、出てきた検体を前にあわてた経験が何度もありました。
でも、ひとつひとつの検体は、患者さんの診断や治療につながる大切なものです。
だからこそ、わからないときに自己判断で進めず、立ち止まって確認できることのほうが、ずっと大切だと感じています。
迷ったときは、ひとりで抱え込まず、先輩や医師に確認すること。
それが結果的に、患者さんを守ることにつながります。
この記事が、検体の取り扱いに向き合うときの、ちょっとした安心材料になればうれしいです。
【参考文献】
- 日本手術医学会 手術医療の実践ガイドライン改訂第四版準備委員会:手術医療の実践ガイドライン(改訂第四版).pS13・S34,2026
- 日本臨床細胞学会:細胞診ガイドライン全巻結合 2015年版 補遺版(2022年),中枢神経・脳脊髄液 p12-13,2020
- 日本病理学会:病理検体取扱いマニュアル―病理検体取り違えを防ぐために―(初版),2016
- 日本手術看護学会 手術看護基準・手順プロジェクト 編:手術看護業務基準 改訂第2版(2025),p8,2025
- 峯上奈緒子 他編:手術看護オールインワンブック(オペナーシング 2022年春季増刊),メディカ出版,p40-47,2022

















