手術中は、麻酔の影響など、さまざまな要因によって体温が低下しやすい状況にあります。
とくに急速大量輸液や輸血が必要な場面では、低体温を防ぐための対策が欠かせません。
そんなときに重要な役割を担うのが、輸液・輸血加温装置です。
ただ、「使用頻度が低くて操作に自信がない」「いざという時に手順があやふやになる」と感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、なぜ輸液・輸血を温める必要があるのかという基本から、循環式・乾熱式それぞれの特徴と使い方までを整理して解説します。
緊急時でも落ち着いて対応できるよう、基礎の確認として参考にしてください。

自著
総合医学社「オペ看ノート」
メディカ出版「メディカLIBRARY」
エッセイ:オペナースしゅがーの脳腫瘍日記
クラシコ株式会社「NURSE LIFE MIX」
NLMメイトとして記事連載中
記事:オペ看ラボ
漫画:しゅがーは手術室にはいられない
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手術中はなぜ体温が下がりやすいの?

手術中は、複数の要因が重なって体温が低下しやすい状態です。
下記の図のように、熱の喪失は一つの原因ではなく、いくつかの要因が同時に重なるためです。

対流:空調など、冷えた空気の流れ
伝導:術野からの熱放射など
蒸散:臓器の露出での水分の気化熱
放射:冷たい手術台などとの熱交換
再分布性低体温:麻酔により、中枢の熱が末梢に移動
このように、手術中は環境や侵襲、麻酔の影響が重なり、患者は意図せず体温を失いやすい状況に置かれています。
そこで重要になるのが、体内に入るもの、つまり輸液や輸血による影響です。
大量または長時間にわたって冷たい輸液が投与されると、それ自体が体温低下を助長する要因となります。
次に、なぜ輸液を温める必要があるのかを整理していきましょう。
輸液・輸血加温装置の使い方
なぜ輸液を温めるの?

病棟で点滴を行う際は、通常、輸液を温めることはほとんどありません。
しかし手術中は、麻酔や手術侵襲、術野の露出など複数の要因が重なり、体温が下がりやすい状態になります。
そのため、手術中に急速・大量の輸液や輸血を行う場合には、体温低下を防ぐ目的で、あらかじめ温めた輸液を使用します。

例えば、大量輸血。
赤血球液(RBC)の保存温度は2~6℃!
そのまま投与をすると、体温が下がっちゃう!
そこで活躍するのが、あらかじめ輸液を温めておく保温庫と、投与直前に加温できる輸液・輸血加温装置です。
それぞれの役割や使い分けについて詳しく見ていきましょう。
保温庫


保温庫は、主に輸液、洗浄用の生理食塩水などを体温に近い温度まで温めて保管するための装置です。



たとえば、下部消化管穿孔の手術では、大量の洗浄液を使用することが。
この洗浄液も体温に影響を与えるため、保温庫で温めて準備しておくことが多いです。
輸液はあくまで室温保存(1~30℃)が基準で、保温庫は使用直前の短時間利用が原則となります。



輸液を補充するときは奥に入れるなど、ルールを決めて古い輸液が残らないように管理します。
輸液・輸血加温装置
保温庫だけではなく、場合によっては輸液・輸血加温装置を使うこともあります。
4℃の輸血を加温せず2L投与すると、体温が1℃低下すると言われています。
ただ、輸液の加温では体温の上昇することはできません。
ですが、熱の喪失を抑制する効果があるとされています。
輸液加温装置には、温水を利用した循環式と乾熱式の2種類があります。



出血量が多くなりそうな場合は、患者情報と術式を踏まえて、
麻酔科医・執刀医と相談して必要物品を準備しておこう!
【循環式】Level1™ホットライン™の使い方


点滴棒に取り付ける。
循環水タンクに蒸留水、精製水、0.3%過酸化水素溶液、35%イソプロピルアルコール水溶液のいずれかを入れる。
循環水の水位が循環水タンクの下限水位マークより上であることを確認し、循環水タンクの栓を閉める。
電源コードを接続する。
本体右側にあるソケットにツインチューブコネクタを取り付け、電源スイッチを入れる。
(循環水の温度表示が上昇し始める)


輸液(輸血)ルートを加温チューブに接続し、経路全体を輸液(輸血)を満たす。
表示パネルの循環水の温度表示が41℃に達したことを確認し、輸液(輸血)を開始する。
【乾熱式】レンジャー™の使い方


ウォーミングカセットを、スロットにスライドさせて挿入する。
本体は患者と同じ高さに調節する。
ウォーミングカセット(専用回路)は標準用、小児用、ハイフロー用がある。
流入側のチューブと、輸液(輸血)ルートを接続し、経路全体を輸液(輸血)を満たす。
終わったらクランプを閉じる。


バブルトラップは逆さにして空気を取り除き、バブルトラップを元に戻してからホルダにセットする。
おわりに
手術中の低体温は、患者の予後や合併症リスクにも影響する重要な問題です。
輸液・輸血加温装置は、体温を「上げる」ための装置ではありませんが、体内から奪われる熱を最小限に抑えるための大切な対策のひとつです。
とくに大量出血や緊急手術では、使用するかどうか、どの装置を選択するかを短時間で判断する必要があります。
使用頻度が低いからこそ、平時のうちに仕組みや手順を整理しておくことが、いざという場面での安心につながります。
患者の状態や手術内容を確認しながら、麻酔科医や執刀医と相談し、チームで協力して周術期の体温管理に取り組んでいけると安心ですね。
【参考文献】
- 武田知子:オペナースが知っておきたい輸液の取り扱いがごっそりわかる!.オペナーシング 38(10):20-21,2023
- 讃岐 美智義 編著:手術室のME機器.メディカ出版 ,p138ー141,2025
- 草柳かほる 他編著:手術看護 術前術後をつなげる術中看護 第2版.医歯薬出版,p156-157,2018
- ICUメディカルジャパン株式会社:レベル1 ホットライン 添付文書
- ICUメディカルジャパン株式会社:レベル1 ホットライン加温チューブ 添付文書
- ソルベンタムイノベーション株式会社:レンジャー 血液・輸液ウォーミング装置 モデル 添付文書
- ソルベンタムイノベーション株式会社:レンジャー 血液・輸液ウォーミングセット(DEHP フリー) 添付文書
- ソルベンタムイノベーション株式会社:カタログ | 3M™ レンジャー™ 血液・輸液ウォーミング装置

















